史上最高4億9000万円落札!
 名牝エアグルーヴの牡馬が史上最高の4億9000万円で落札された。サラブレッドの当歳(今年生まれた馬)セリ「セレクトセール2004」が12日、北海道苫小牧市のノーザンホースパークで開催され、「エアグルーヴの2004(父ダンスインザダーク)」は、4億円を超えて激しい競り合いの末、「フサイチ」の冠で知られる関口房朗氏(68)に落札された。早ければ06年にデビューする。場内は異常な熱気に包まれていた。「4億! 」「4億3000万! 」。景気のいい声が上がるたびに、大きなどよめきが起こった。「4億9000万。5億、ございませんか」。セリの終了を告げる木づちの音に続いて、拍手が鳴り響く。出た!4億9000万円。父ダンスインザダーク、母エアグルーヴ、04年4月5日生まれの牡馬が日本のセリ史上、初めて4億円の壁を超えた。大種牡馬サンデーサイレンス産駒がいない初めてのセレクトセール。血統的背景から「エアグルーヴの2004」は初日の目玉として注目されていた。お台(上場者がつける最低価格)はこの日最高の8000万円。それが一声で1億5000万円になり、次が2億円。5000万単位で跳ね上がる数字は、庶民とは違う世界の出来事だ。途中からはフサイチの関口房朗氏とアドマイヤの近藤利一氏の一騎打ち。「セリで負けるということは競馬で負けることと同じ」という関口氏が、自ら右手を挙げて価格を叫ぶ。「予算は無限大。何としても落とすつもりだった」。5億を前にしてライバルがリタイア。サンゼウスが記録した3億6050万円(税込み、89年2歳8月市場)を大きく上回る、もちろん日本競馬史上最高価格だ。生産者であるノーザンファームの吉田勝己代表も「すごい…。生産者として本当に幸せ。やっぱり母親の実績でしょう」と興奮を隠さない。母は牡馬相手に天皇賞(秋)を制した名牝。初年度からG1勝ちのアドマイヤグルーヴを出した。父もツルマルボーイが今年の安田記念を勝ち、ポストSSの一番手と目されている。吉田氏も「当歳時の雰囲気は子供の中で一番いい。アドマイヤグルーヴより上」と自信をもって送り出した1頭だった。ずらりと並んだカメラの放列の中、関口氏は「皆さん、この馬の馬券でもうけてくださいよ」とガッツポーズ。激しく競り合った近藤氏ともガッチリと握手した。「1つの夢。日本のファンのために夢を買った」。夢の良血馬のデビューは早ければ2年後の06年夏になる。

 過去7年(今年は12日現在)で2億円以上の値がついた馬は9頭いる。それまでの史上最高額は89年の「2歳(現1歳)8月市場」で3億5000万円で落札されたサンゼウスだったが、競走成績は8戦2勝と振るわず、獲得賞金の2360万円は購買価格の1割にも満たなかった。また3億2000万円のカームは、昨年7月にデビューし13、9、12着の3戦未勝利。その後、地方・岩手競馬に移籍し活躍(3戦3勝)しているが、獲得賞金は105万円。2億6500万円のモガミショーウンは中央6戦未勝利で引退。2億2000万円のミステリアスアートも中央で8戦未勝利の後、地方ホッカイドウ競馬に移籍したが、3戦未勝利。結局、高額落札馬で相応の活躍をしているのは、G1・1勝、重賞2勝を挙げ、3億370万9000円を稼いでいるアドマイヤグルーヴ1頭だけだ。

 4億9000万円の史上最高価格に、会場に詰めかけた競馬関係者はそろって驚きの声を上げた。父のダンスインザダークを管理していた橋口弘次郎師は「血統的にも申し分ないし、馬自身も素晴らしい。バランスがいい馬だね。いずれはダンスがリーディングサイヤーになると思うよ」と絶賛する。姉のアドマイヤグルーヴを管理する橋田満師も「競馬をしている馬と走っていない馬を比べるのは難しいこと」と前置きをしながらも「いい馬だと思います」と語った。一方、4億を超えた価格には、当然、疑問の声もある。マイネル・コスモ軍団の総帥、岡田繁幸氏は2億3000万円まで競りに参加したものの、そこで断念した。「おしりの部分が物足りない。もう少し(しりが)大きければいいんだけどね。柔らかいしバネのある馬だけど、G1を狙うには完ぺきでないとダメ。そうでないとG1を2つ、3つは勝てないよ」と語る。シェイク・モハメド殿下が率いるゴドルフィンの日本法人ダーレージャパンの高橋力氏は「すごくいい馬で大物感があるけど、賞金とかを考えれば高すぎ。最初から購入リストには入れていなかった」とシビアな意見だった。

<一問一答>
 −−購入を決めた理由は
 関口氏「一目ぼれだね。いい馬体をしていたし、周りのみんなも、僕も、見て気に入った。雰囲気が良かった。」
 −−予算は
 関口氏「無限大。この馬の馬の3億5000〜6000万円ぐらいと思っていたが、セリで負けるということは競馬で負けるというのと同じこと。絶対に負けたくなかった。」
 −−4億9000万円は非常に高いが
 関口氏「何年か先にならないと結果は分からないが、可能性を買った。サンデーサイレンスがいなくなった今、スターホースを出さないとダメ。日本のファンのためにこの馬を買った。頑張りますよ。」
 −−入厩先は
 関口氏「これからじっくり考える。去年の馬(SS×セトフローリアン2の2003=3億3000万円)は受け入れ先を公募したが、今回はそれはしないつもりだ。」
 ◆関口房朗(せきぐち・ふさお) 1935年(昭和10年)12月20日、兵庫県生まれの68歳。株式会社VSN会長。96年フサイチコンコルドで日本ダービーを優勝。00年にはフサイチペガサスで、日本人オーナーとして初めて米国最高峰のケンタッキーダービーを制した。この日のセリでは、ほかにアドマイヤサンデーの04を1億円で落札するなど、計4頭を落札しトータルは7億300万円。

 SS産駒が出なくても、史上最高額ホース誕生だ。サラブレッドの当歳馬せり市「2004セレクトセール」が12日、北海道苫小牧のノーザンホースパークで開幕。母にエアグルーヴ、姉にアドマイヤグルーヴをもつ「エアグルーヴの2004」(牡、父ダンスインザダーク)が国内セリ最高額となる4億9000万円(税別)で関口房朗氏(68)に落札された。一昨年急死したサンデーサイレンスの後継種牡馬と女傑の間から生まれた黄金の馬に馬産地は大揺れとなった。せり開始から2時間半。注目の「上場番号68 エアグルーヴの2004」の上場がアナウンスされると会場にどよめきが起こった。それまで1000〜2000万円からのスタートだったが、いきなり「8000万」のお台(生産者の最低希望価格)が告げられる。母エアグルーヴ、姉アドマイヤグルーヴの血統に均整の取れた鹿毛の馬体。その魅力に誘われるようにたった一声で「1億5000万」、「2億」の大台を突破すると、次々に手が上がって国内最高価格の3億5000万円も超えた。15回目のかけ声でフサイチの冠名で知られる関口房朗氏が自ら手を挙げて「4億」に到達した後は、アドマイヤグルーヴを所有する近藤利一氏との一騎打ち。「4億1000万」と近藤氏がコールすると、関口氏も「4億3000万」と間髮入れずに応酬する。ダメ押しするように関口氏が「4億9000万」と声を上げたところで、近藤氏は断念。「5億ないか」のせり鑑定人の声を最後に、落札決定を告げるハンマーが振り下ろされた。この間、約2分30秒。あっという間の黄金の馬誕生劇だった。競り落とした愛馬を前に満面の笑みで応える関口氏。昨年、自ら3億3000万円で競り落としたサンデーサイレンス産駒(セトフローリアン2の2003)を超える巨額出費にも「これまでクールモアスタッド(愛国)やモハメド殿下(UAE)、近藤さんなどと競り合ってきたが、1度も負けたことはない。セリで負けたら走らないと思っているからね。きょうの予算?無限大だよ」と余裕の“勝利”を強調した。サンデーサイレンス産駒が上場しない最初のセール。低調な購買が予想されたが、前評判を覆す日本記録更新。同氏は「ひとつの夢だったサンデーサイレンスがいなくなった。スターホースが出ないと競馬がすたれてしまうし、ファンのためにも夢を与えたかった。3億5、6000万くらいかと思っていたが、馬は見た目にもいい体をしていたし、買うつもりでいた。自分でこれだけ高い馬を日本で預けるのは初めてだから楽しみ」と続けた。「セトフローリアン2の2003」の入厩先を前代未聞の“公募”で池江寿厩舎に決めた同オーナーは、今後、史上最高額ホースの入厩先を検討していく。06年デビューに向けて注目は高まるばかりだ。≪昨年を上回る≫SS産駒不在で迎えたセレクトセールだったが、初日は159頭が上場し、122頭が落札。売り上げは42億1943万円(税込み)で昨年の39億8160万円を上回った。売却率も76・7%で昨年の73・2%から上昇。日本競走馬協会副会長の吉田照哉・社台ファーム代表は「サンデーがいなくなったが牧場に馬を見に来る人が増えていたし、売却率が上がる自信はあった。でも、売り上げが上がったのにはびっくり。2日目もどんなせりになるか」と満足そうだった。

トップへ
トップへ
戻る
戻る